一本の電話から、現地へ
- 神保:
- みなさんとの出会いのきっかけは、エルにお電話をくださったことでした。
- 元紀さん:
- ええ、もともと白骨温泉のサイトをつくってくれていたデザイナーさんが、「長野でデザインをお願いするなら、エルさんがいいよ」と教えてくれたんです。
- 神保:
- 恐縮です。でも、とてもうれしかったです。お電話を取った社長とすぐに、「ぜひお力になれたらいいね」と話したことを覚えています。
- 聡介さん:
- そのあとみなさんには、「ぜひ直接現地でお会いしたい」とお伝えしました。白骨温泉がどんな場所で、私たちがどんなことを思っているのかわからないと、エルさんも提案のしようがないじゃないですか。だからまずは、現地でいろいろ感じてもらいたかったんです。
ただホームページを立ち上げるだけなら、「写真をください、原稿をください、こんな感じに仕上がりました」という一方的なやり方になりますが、そうではなくて、我々が大事にしているものをお伝えしたうえで、それを表現していただきたいと思いました。

- 神保:
- あの時間があって、本当によかったです。実際に温泉に入って、宿に泊まって、みなさんとお話して。全身で「白骨温泉の素晴らしさ」を実感しました。普段よりも感覚が研ぎ澄まされて、自分が感じていることに素直になれるというか。温泉に入って目を閉じていると、ずっと昔、私はここから生まれたのではないか、という気がしてきて……「白骨温泉に来ると、こんな気持ちになれるんだ」と実感しました。
- 吉池:
- お湯が素晴らしいのはもちろんですが、その背景にある歴史を知ってから触れると、温泉に入る体験そのものが全然違ってくるんだなと感じました。この体験を活かして、白骨温泉の魅力を発信していくお手伝いができたらと、つよく思いました。
- 神保:
- 帰りの車のなかでは、みんなで熱量高く「どんなかたちであれば、この場所のよさを伝えられるだろう」と話していました。
- 筒木さん:
- いいですね、相乗効果ですね。
- 聡介さん:
- 実際に温泉に入っていただいて、白骨温泉を感じてもらったのもよかったですね。私たちも、エルのみなさんの空気を感じられてよかったです。Webもグラフィックもライティングもまるっとお手伝いいただけるというのも心強かったですね。
自分たちにとっては当たり前のことでも、客観的な視点で見ると特別な側面もあるかもしれない。ぜひみなさんの感性で、白骨温泉を表現してほしい、と思いました。
ここで生きる人の言葉を、残す
- 神保:
- 今回のブランディングでは、「自然回帰」をコンセプトにしました。
新たなコンテンツとしてご提案したのが、「白骨物語」です。情報だけではなく、白骨温泉の歴史やそこで生きる人の話を、「物語」として掲載するページです。2泊3日現地に滞在して、10人の方にお話を伺いました。


- 聡介さん:
- 私たちにとっても、ありがたい機会でした。我々は基本黒子に徹するので、お客様が宿の主人の考え方を聞く機会ってそんなにないんですよ。それこそ生い立ちとか、どうしてここに帰ってきたのかなんて、話す機会がなかった。だから、こうして言葉にして発信していただけたのはありがたかったです。各宿の方がどんなことを思っているのか、私たち自身も知ることができました。
- 文彦さん:
- 私も全部読みまして、各宿の信念や理念が言語化されたのを感じました。自分たちが大切にしていることを、言語化する機会をいただけたなと感じます。
個人的には、白骨温泉の長老の話を、しっかり聞いて残していただけたことが嬉しかったですね。昔の人たちの話って、これまでちゃんと残せていなかったんです。残すべき話はちゃんとあったのに、残していく術がなかった。きっと覚えていることより、忘れてしまったことのほうが多いと思います。だから今回、90代の方の話をきちんと残せたのは、本当によかったです。この機会がなければ、知らずに終わったかもしれません。
- 元紀さん:
- 表面的じゃない、深い話でしたよね。白骨温泉に必要なのは、インナーブランディングだったのだと思います。内側にいる私たち自身が共通認識を持てていれば、その心地よさはきっとお客さんに伝わって、リピートにもつながっていくはずなんです。

- 神保 :
- 私はお一人ひとりからお話を聞いていて、ずっと胸がいっぱいでした。お話を聞いたあと温泉に入りながら「絶対に伝え残さなければ」と思っていました。時代や建物や景色は変わっていくけれど、ここにある自然と、ここで生きる人の心根は変わらない。それこそ、一番大切に残していきたいことだと。
- 聡介さん:
- 白骨温泉の人の信念や考え方に共感して、行き先として選んでもらえたらうれしいですよね。単に費用とか、上辺の情報ではなくて。
ここが何を大事にしてお客様をお迎えしているのか。根っこの部分に共感して訪れていただいて、ファンになってもらえたらうれしいです。白骨がその人にとっての、「還る場所」になれたら。 - 筒木さん:
- お客様のなかには、宿を泊まり歩いて、「〇〇さんの宿は、何周目」という方もいらっしゃいます。それぞれの宿が個性的だから、季節や気分で宿を選んでもらえるんですよね。

- 吉池:
- 白骨温泉の持つ力は、僕たちも来るたびに実感します。
- 神保:
- 一回来て終わりではなく、「白骨温泉が好きで、何度も来てくれる」という人が増えたら、私たちも本当に嬉しいです。

「自然主語」でデザインする
- 神保:
- 今回のブランディングは全体を通して、「ここにあるものが素晴らしいのだから、それをどう活かして、どう伝えるか」を主軸に置いていました。
- 吉池:
- デザインするうえで大切にしたのは、「白骨温泉にあるもの」にフォーカスを当てることです。2億5000万年の歴史が生んだ自然の造形として、「石灰華」を大胆に見せることをご提案しました。最初にご覧になったとき、どんな印象でしたか?
- 聡介さん:
- こうきたか!と思いました。今までの概念にとらわれていたので、おそらく温泉か風景のカットが来るんだろうと思っていたんです。そうしたら、すごくミクロの世界の表現だった。ありのままを映し出すこと自体に視覚的なインパクトがあって、「これは何だろう」と知的探求心をくすぐられ、没入していける。白骨温泉のルーツを感じる見せ方だと思いました。

- 元紀さん:
- リニューアルしたサイトを見た娘たちは、「写真がいいよね。白骨をうまく捉えている」と言っていました。すごい感性だと。松本市の方をはじめ周囲の人からも、「素敵だね、いいね」という声をいただいています。自分たちにとっては当たり前の景色なので、みなさんの感性で切り取っていただけてよかったなと思います。
- 神保:
- 自然の造形は、グラフィックでつくろうと思っても絶対につくれないですよね。
- 吉池:
- 実際に現地に来ていなかったら、あのビジュアルにはたどり着けなかったと思います。白骨温泉で感じた温度や手触りを届けたい、白骨温泉の「本物」を伝えたい、その入り口をつくりたいという思いでデザインしていました。自然に力をもらった部分が大きいですし、制作も楽しかったです。
- 神保:
- 「人間主語」ではなく「自然主語」で考えよう、というのを、チームで大事にしていました。これも、みなさんからもらった言葉です。

- 聡介さん:
- 世界観もいいですし、いかにも「集客しよう」という感じではないのが白骨らしくていいなと思います。そういう押し出し方以外の方法で、白骨温泉をいいと感じてもらえたらうれしいので。
- 吉池:
- まさに、そこを大事にしました。押し出さず、写真や文字の置き方、にじみの表現で「佇まい」を表現することで、自然と「いいな」と感じてもらえるサイトを目指しました。
- 聡介さん:
- 根っこの部分を表現してもらえたと思うので、ここはぶらすことなく、ずっと残していきたいですね。
- 神保:
- 自分たちだけじゃなくて、ここを愛した人がたくさんいるんですよね。時代を超えて、白骨温泉のよさに共鳴できるって素敵だなと思って、白骨にゆかりのある文人の和歌も、さまざまな箇所に反映しました。リードコピーも、和歌とあわせて七五調にしています。

- 文彦さん:
- 斎藤茂吉などが宿泊した帳簿は、今も残っているんですよね。当時の文化人たちのなかには、宿代のかわりに掛け軸を置いていった人もいたようです。
- 聡介さん:
- 当時はまだ知られていない人もいたでしょうが、白骨温泉の人たちは「何か価値があるのだろう」と思って、大切にとっておいたんでしょうね。
- 神保:
- 残っているということ自体に、本質的な価値を見出して、大切にしたいという、白骨温泉の心根が表れている気がします。
これからの展開
- 筒木さん:
- これまでは、各宿がそれぞれの営業をやってきました。でもこれからは、組合として一丸となって、お客さんをお迎えする風土をつくっていかなければと思っています。これまでのサイトはパンフレット的な役割でしたが、リニューアルを機に、我々が発信できる土台をつくってもらいました。発信の窓口ができたことは大きいです。これから成長していけると思っています。
- 元紀さん:
- この土地の中で思いが循環して、訪れる人にとっても、働く人にとってもいい影響を及ぼせたらいいですね。
サイトを見たら、「絶対にここに行かなければならない」と感じてもらえたらうれしい。できるなら予約もこのサイトを入口に、各宿サイトからしてもらえたらいいなと思っています。

- 神保:
- 「白骨温泉に行きたい」という理由で来てくれる人が増えたら、私もすごくうれしいです。今後は、白骨にゆかりのある方に話を聞く「語る人」コンテンツを育てたり、「新緑編」「紅葉編」「雪景色編」の3本を撮って、総集編でひとつの動画版「白骨物語」をつくる予定です。ここにいる人たちの素晴らしさを本当に感じているので、すこしずつ大切に届けていきたい。
- 吉池:
- サイトのコンテンツもふくらませていこうと思っています。撮影した写真や動画を活かして、白骨温泉の四季を感じられる仕掛けを取り入れていけたらと。
- 聡介さん:
- エルのみなさんはいつも、白骨温泉の価値をしっかり感じ取って、それを表現してくださるので感謝しています。


ずっとここが、「還る場所」であり続けるために
- 元紀さん:
- 白骨温泉のベースは「自然」です。この自然を壊さず、いい状態で次につなげていくことが一番重要だと思っています。ここまで家業としてみんなでやってきたけれど、世の中は変わり続ける。それでも、基本は家業。白骨のよさをなくさないように、人と人のつながりを大切に、みんなで補い合いながらやっていきたいです。
- 筒木さん:
- 私は、地元に住んでいる人たちにも、白骨のことを再確認してもらいたい、という気持ちがあります。私自身、いろいろな側面から白骨温泉のことを学んでいますが、知らないことがまだまだ多すぎるくらいです。このホームページを知っていただくのと同時に、私たちも学びながら知って、それをお客さんと共有していきたい。
自然、地質、人間の歴史を感じられるツアーも続けていきます。ここにいる一人ひとりが、白骨温泉の伝道師(コンシェルジュ)として、白骨温泉の価値を伝えていけたら素晴らしいですね。
- 聡介さん:
- 私たちは、ずっと昔から続いてきた歴史の一部分、ほんの数十年を任されているんですよね。次にどうつないでいくか。これは一軒の宿の問題ではなく、白骨全体の問題だと思います。この規模感で、ちゃんと残していけるものをつくらなければいけない。経営的に事業を続けることが難しい時代ではあるけれど、みんなが前向きに商いを続けられるように、組合としてやっていきたい。その結果、滾々と湧き出るお湯のように「ずっと続いている」場所であれたらうれしいです。変わり続けているけれど、変わらないために変わっていこうと思います。
- 文彦さん:
- 話すことはそれぞれ違えど、根底に共通しているのは「ここにある、生まれ育った場所を大事にして、守って、未来につないでいきたい」という思いなんですよね。大事にしたいものを、大事にしていきたい。今回、ホームページを通して、エルさんには心の伴走のようなものをしてもらっている。これからもよろしくお願いいたします。
- 神保:
- 私たちも、同じ気持ちです。白骨温泉を愛する一人として、同じチームの一員として、白骨温泉が、ここを愛する人たちからずっと愛され、残っていくために、ぜひお手伝いさせてください!
- 吉池:
- 引き続きよろしくお願いいたします!

