初春、山奥のオフィスにて
- 神保:
- 本日はよろしくお願いします。
- 土屋:
- よろしくお願いします!
- 牧野:
- オフィスまで来てくださって、ありがとうございます。
以前いらっしゃったときは一面雪景色だったのに、すっかり緑になりましたね。
- 神保:
- ここは、いつ来ても景色がいいですね。
今日は取材ということですが、台本はないので、いつも通りでいてください。お二人のそのままの空気感が素敵なので。オンクリのみなさんがここで話している動画が、本当にいいんです。
- 牧野:
- いつも、オンクリのコンテンツをいつも見てくださってありがとうございます。私たちもすごく励みになっています。
- 神保:
- 私がオンクリさんを初めて知ったのは、3年ほど前に土屋さんとご一緒した、軽井沢の建築事務所「one it」さんのお仕事がきっかけでした。
- 土屋:
- もうそんなに前になりますか。
僕はそのとき初めて神保さんのコンセプト提案を見て、感銘を受けたんです。コンセプトワークとはこういうことなのかと。
それ以来、noteもずっと拝見していました。松本PARCOの記事を読んだときは、キャッチコピーの力に感動して、思わずメッセージを送らせていただいたくらいです。
- 神保:
- ありがとうございます。案件が終わってもこうして再会できること、また一緒にお仕事できること、とても幸せです。

ブランディングプロジェクトのきっかけ
- 神保:
- 今回のプロジェクトは、どういうきっかけで始まったんでしょうか。
- 牧野:
- 「ブランディングしたい」という話を土屋としたのは、ちょうどこの庭でした。
オンクリは創業5周年を迎え、人もできることも増えてきたんですが、同時に「言っていることがふわっとしているな」と感じることも増えてきたんです。そのふわっと感の正体が定義されていないから、クライアントにうまく提案できない、と感じることがありました。
- 土屋:
- オンクリはこれまで「若者のために胸を張って幸せだと言える社会をつくる」をミッションに掲げていました。でも、社員から「若者のためって、具体的に何をするんですか?」と問われると、うまく答えられないこともあって。
オンクリで働く理由として、給料をもらうため以外の、ひとつ使命があった方がいいと思ったんです。僕のなかにはあるんですが、みんなにとっての使命。みんなでいつでも見上げられる「共通の旗印」がほしかった。

- 牧野:
- それをかたちにするために、メンバー全員でビジョンブックをつくろうという話になりました。
- 神保:
- とても共感します。時代によって、できることは増えたり変わったりしていきますし、それこそ今はAIの台頭によって、何でも一定のクオリティでつくることができる。だから、「何のためにそれを作るのか」という姿勢の表明が大事になってくる。それこそが「らしさ」なのかもしれないですよね。
- 土屋:
- このブランディングプロジェクトは、ぜひ神保さんにお願いしたくて。
理由の1つは、信頼できる第三者の視点がほしかったから。社内のメンバーだけで進めようとすると、「どちらの意見が正しいか、どちらの表現がいいか」議論になったとき、ジャッジが難しいじゃないですか。お互い気を遣いすぎてしまったり、逆に傷つけあってしまうことがある。だからこそ、信頼できるプロの方に入ってもらい、客観的な視点で道を示してもらった方が、納得感がある議論ができるはずだと思いました。
そしてもう1つの理由は、純粋に僕も牧野も、神保さんが書かれている文章をずっと読んでいて、「ものすごくいい文章を書く人だな、いつか絶対一緒にお仕事をしてみたい」と盛り上がっていたからです。
- 牧野:
- 私、神保さんの文章がすごく好きで、長野にこんな人がいるんだ!ってうれしかったんです。土屋さんからも、「牧野さんと神保さんは話が合うと思う」とずっと言われていて。
- 神保:
- うれしいです。牧野さんとは本当に、あまりにも深いところで共鳴することが多くて……さすが土屋さんですね(笑)。
私は「好きな人と仕事して生きていく」ことが幸せなので、おふたりと、みなさんとご一緒できたことが、とても幸せです。
今回のご依頼は、「定期的に相談にのってほしい、長期的に併走してほしい」というもので、自分にとっても新鮮な関わり方でした。ここまで深くから入らせてもらって、ブランディングのプロセス自体を一緒に考えていけたことがすごくありがたかったです。オンクリさんのことを深く知ることができたし、知れば知るほど好きになりました。それだけみなさんが素敵だった。
- 牧野:
- うれしいです。
定例MTGのあとは、いつも「いい時間だったなあ」と感じていました。 - 土屋:
- 神保さんが一緒にいてくれたら、絶対にいいものになるという確信がありました。

みんなで行った、ブランディングワークショップ
- 神保:
- まず目指したのは「オンクリメンバー全員参加の、ブランディングワークショップ」でした。
- 牧野:
- これは初めての試みでした。遠方にいるメンバーも多いので、「みんなが納得できる、意味のある時間にできるかどうか」が一番不安でした。事前に神保さんと、どんなことを何のためにどんな順で行うか、綿密に相談しながら当日の流れを設計しました。

- 神保:
- 設計時点から、オンクリのみなさん一人ひとりが、「いい日だったな」と思える時間になるといいなと思っていました。否定されたらどうしよう、という不安がない状態で、自分の思っていることを素直に言い合える、そんな時間をつくりたかった。
- 牧野:
- 神保さんにファシリテーターとして伴走していただけて、本当によかったです。
特にありがたかったのは、私たちが普段あやふやに使ってしまっている「若さ」や「若者のため」という言葉について、「みなさんにとってそれはどういう意味なんですか?」と問いかけてくださったこと。自分たちだけでは考えもしなかった問いを起点に、それぞれの口から意見が出てきて、そこに共通項が見つかって、新しい言葉(MVV)として紡がれていく……このプロセスを先導してくださったことが、とても心強かったです。 - 神保:
- よかったです。主役はオンクリのみなさんなので、こちらからがちっと定義するのではなく、一人ひとりが「自分たちにとってのオンクリ」を考えて、安心して意見を言い合える時間になったらいいなと思っていました。
- 牧野:
- 自分たちが必要としていたのは、こういう対話だったんだなあと思いました。


- 神保:
- ワークのなかで、「オンクリっぽいものを持ち寄ってください」というお題を出させていただきました。まだ言語化される前の感覚を共通することで、言葉より前の部分で、目線を合わせられたらと思い。
- 牧野:
- あの時間はすごくよかったですね。一人ひとりが持っている感性を、少しずつ分けてもらった気がします。それぞれが「オンクリらしさ」を持っていてくれる、とわかったのもうれしかったです。画面越しでは伝わらない、それぞれの手触りや匂いや音をその場で共有できたのも大きかった。

- 神保:
- 土屋さんは、すこし離れたところから見守っていてくれましたね。
- 土屋:
- 僕が喋りすぎると、みんなが僕の意見に忖度して引っ張られてしまうのが嫌だったんです。だからワーク中はあまり発言せず、みんながどんな顔をして喋っているかを見ていました。
驚いたのは、誰一人として「誰々さんと同じでいいです」と流される人がいなかったこと。入社したばかりのメンバーでさえ、しっかりと自分の言葉で、言いたいことを堂々と発表していました。
- 神保:
- 一人ひとりがオンクリに対して持っている想いや愛着、お互いのリスペクトがあったからこそだと思います。傍から見ていて、関係性が素敵な会社だなと感じました。
- 土屋:
- うれしいですね。オンクリのメンバーは、みんないい人なんですよ。いい人でありながら、自分の軸をちゃんと持っている。それが確認できただけでも、このワークをやった価値がありました。
- 神保:
- ワークが終わってから、社内のコミュニケーションや雰囲気に何か変化はありましたか?
- 牧野:
- あの2日間で、お互いのディープな価値観や好きなものを知ることができたので、心のフィルターが一枚外れた感覚があります。一層深いところで信頼し合って、コミュニケーションが取れるようになりました。
- 土屋:
- お互いの前提条件が分かっていると、チームビルディングがものすごくスムーズになるなと実感しました。「この人はこういう価値観を持っているから、ここまでは部分的に依存して大丈夫だな」とか、「ここから先はあの人に任せよう」という境界線が無自覚に分かるようになる。多様性とか寛容さって、お互いのスタンスを認め合うことをいうんだなと、あらためて思いました。



「オンクリを表す本」として、完成
- 神保:
- ワークが終わってからは、定例で進捗を確認しあいながら、役割分担して本を作成していきました。
- 牧野:
- 編集のサポートも心強かったです。オンクリのみんなの素質や技術があった上で、神保さんなしでここまでのものは間違いなくできなかったと思います。


- 神保:
- イラストもデザインも写真もテキストも、オンクリのみなさんのクリエイティブが本当に素敵で!完成版を見たとき、「紛れもなく、オンクリさんの本だ」と思いました。
オンクリという屋根のなかに、一人ひとりの個性や信念が見える。みんなでつくることって簡単じゃないのに、このビジョンブックは紛れもなく「みんな」でつくられていて、その過程ごと見えるようで、本当に本当にいい本だなあ……と。じんわりしちゃいました。
- 牧野:
- 神保さんがくださる言葉や、デザインを「素敵です」と素直に伝えてくださったことが、私個人としても、本当に支えになりました。
自分たちでは当たり前で気づかない「オンクリらしさ」を、神保さんがしっかりキャッチして伝え続けてくださったことや、ワークの設計からこれまで(これからも!)オンクリのそばにいてくださったこと、いくら感謝しても足りません。 - 神保:
- 本当に素敵だったので、もう惜しみなく伝えていこうと思って(笑)。
自分がオンクリのことを知らなかったとしても、この本を見かけたら、気になって手に取ってしまうと思います。そのうえで、ひとつひとつの言葉に救われる気がします。そして、こんな本をつくっている会社に何か相談したいと思うかもしれません。
ビジョンブック2026なのも、今後がある予感がしてわくわくします。こんな大人がいて、こんな会社があるんだよって、届くべき人に届いてほしい。 - 牧野:
- はい、しっかり届けていきたいです。
偶然の出会いのなかで、「うわ、この会社めちゃくちゃいいじゃん!」「この人たちと一緒に仕事がしたい!」と、ビビッと来てもらえたら、そんな人に出会えたら、これ以上嬉しいことはないですね。
- 神保:
- ターゲットを絞って狙い撃ちするマーケティングももちろん正しいですが、良いものってきっと普遍的で、想定していなかった人のところまで届くことがあるんですよね。
- 牧野:
- ビジョンブックが誰かの手に渡っていることを想像して、今からちょっと嬉しいです。こんな気持ちになるなんて、思っていませんでした。

- 土屋:
- 僕にとってブランディングの定義は、「思想の見える化」なんです。言葉にできない心の中にあるものを、かたちにしてストックし、伝えていく作業。そうすると、それを「なんかいいな」と思う人たちが、自然と集まってくる。変に繕わずに、自分たちの思想を出していくことの繰り返しが、結果として良い仲間を引き寄せるんだなと実感しています。
- 神保:
- ロジックではなく、 「なんか分からないけどこの会社が好き、この人が好き」という感覚って、ずっと続く気がします。たとえば「絵が上手いから好き」「足が速いから好き」という条件付きの理由だと、その要素がなくなった時に揺らいでしまうけれど、「何だか分からないけど好き」は最強のゴールなので。
- 土屋:
- この世界にはたくさんの人がいるから、伝え続けていたら、きっと誰かに届くんですよね。自分たちが行うブランディングの仕事でも、それは感じます。制作の仕事って、仕組み上どうしても「発注側」と「受注側」とで、力関係が発生することが多いじゃないですか。だからこそ、こちらの価値観に共感してくれて、対等でいてくれるクライアントと出会えることは、本当にありがたいです。
- 神保:
- オンクリさんが「僕らはこういう理念を掲げていて、こういう存在です」と表明することは、「本当にオンクリを求めている人」と出会うきっかけになると思います。オンクリさんの存在を希望だと感じる方って、きっといると思うんです。若者に限らず、かつて若者だった人も含めて。
- 土屋:
- そうですね、届いていったらうれしいですね。

誰かの夢を冷笑しない。あのころ、なりたかった大人になる。
- 神保:
- みなさんとの対話のなかには「冷笑しない」「人の夢を笑わない」というワードが何度も出てきました。私自身、話を聴きながら救われる瞬間がたくさんありました。今回のワークを通じて導き出した「なりたかった大人になる」という言葉、自分もすごくしっくりきていて。オンクリのみなさんはすでに、誰かにとっての「なりたかった大人の姿」そのものになっているなと感じます。
- 土屋:
- 僕には、「かっこいい大人」の基準になっている人がいるんですよ。専門学校時代の先生なんですけど。
ある日、学校へ向かう道で、少し前を先生が歩いていたんです。途中の自動販売機の横に、空き缶やゴミがものすごく散らかっている場所があって。周りの生徒も大人も、みんな見ないふりをして通り過ぎていくなか、その先生だけは立ち止まって、誰にアピールするでもなく、ただ一人で落ちていたゴミをすべて拾って片付け始めたんです。
それを見たとき、「これが本当にいい人なんだ、僕もこういう大人になりたい」と心から思いました。上司やリーダーの才能って、優秀かどうかよりも、「この人のためなら一肌脱ぎたい」と思わせる人間力や美学があるかどうかだと思うんです。だから僕は、良心を持った大人でいたい。誰に対しても対等で、誰かが本気でやろうとしていることを絶対に冷笑しない大人でありたい。
- 神保:
- まさに、恩送りのかたちですね。こんな大人になりたい、と思った若いころの土屋さんと、今の土屋さんが地続きというか。
土屋さんと話していると、視座の高さをいつも感じます。地域で雇用を作ること、仕事を作ること、それ自体がものすごい希望だと思うんです。東京に行かなくても地元にちゃんと仕事があって、そこで「この人たちと一緒にものづくりをしたい」と思えるチームがいる、それ自体が、オンクリさんの大きな強みです。先行き不透明な時代、不安を抱えている若者やクリエイターも多いと思うので。

- 土屋:
- 僕は、「全員がアーティスト」だと思っているんです。「この人のつくったものがほしい」と依頼されるって、アーティストじゃないですか。だから僕からしたら、牧野さんも神保さんもアーティスト。
クライアントワークだからって、自分を消す必要はない。アーティストなんだから「自分の作ったデザインを修正されて、我が子を否定されたように傷つく」のも当然だし、その傷つくほどの強いこだわりと愛着があるからこそ、僕らにしか作れない唯一無二のものが生まれるんだと思います。
- 神保:
- 土屋さんの言葉、数多のクリエイターを救うと思います。
- 牧野:
- 私は、この先何年経っても、今、メンバー全員が気持ちよく健康的に働けている環境をなくさず、アップデートし続けたいと思っています。今いる仲間が、誰も欠けることなく健やかに、楽しんでクリエイティブを続けられる状態をつくりたい。それが一番の願いです。
- 神保:
- 牧野さんの優しさって、ただ優しいだけじゃなくて、意思のある優しさなんだなあ、と感じます。「かつての苦しかった自分を知っているからこそ、絶対に負の連鎖を断ち切るんだ」という意思。時空を超えて、勝手に自分も救われる気がします。

- 神保:
- オンクリさんと話すなかで、自分も内省が捗って、「私は何のためにものづくりをしたいんだろう」と考えることも多かったんです。私には、「過去・現在・未来、そしてあり得たかもしれないすべての世界線の自分」を救ってあげたい、という気持ちが根底にあります。どの世界線を選んでいたとしても、その自分の選択を絶対に否定しないようなもの、生きていても悪くないなと思えるものを、つくって渡していきたい。かつて自分がほしかった言葉を、かけてあげられる大人でいたい。だから、オンクリさんの理念には、共鳴する部分が大きかったのかもしれません。
- 土屋:
- 神保さんの話、僕にとってもすごく腑に落ちます。
僕、ひとつ夢があって。テレビ局をつくりたいんです。ショートムービーやドキュメンタリーを流す、映像メディア事業を立ち上げたい。地域で生きる人たちの姿をそのまま残していくような、そんなクリエイティブをつくりたい。その会社の家族や地域の人が見て、本気で心が動くような。企業の採用や広報としても、大きな力を発揮すると思うんですよね。 - 神保:
- めちゃくちゃ見たいです。なんなら一緒に何かつくりたい。脚本でもインタビューでも何でも、喜んでお手伝いさせてください。
- 牧野:
- 神保さんが横にいてくれたら、もっともっと素敵な表現を生み出していけるという確信があります。
- 神保:
- オンクリのみなさんは私にとっても、出会いたかった大人であり、出会えてよかった人たちです。これからもよろしくお願いいたします!

プロジェクトメンバー
- Project Manager
- 土屋喬椰(オンクリ)、牧野ほのか(オンクリ)
- Director
- 神保美月
- Art Director
- 牧野ほのか
- Designer
- 牧野ほのか
- Writer
- 神保美月
- Writer
- 土屋喬椰、牧野ほのか、磯谷、小林るり、岩本怜也、千葉あいり(オンクリのみなさん)
- Editor
- 牧野ほのか、神保美月
- Illustrator
- 小林るり
- Photographer
- 岩本怜也
- Facilitator
- 神保美月
