クライアント対談

理念ベースのWebサイトは、会社の旗印になる

株式会社マルチプル(MULTiPLE Inc.)

クライアント対談第2弾のお相手は、東京都渋谷区拠点のプロジェクトデザインカンパニー「マルチプル」さんです。
創業10周年をきっかけに、会社の強みを定義しなおし、Webサイトをフルリニューアルしました。「マルチプルらしさ」を、チーム全員で考えてかたちにしたプロジェクト、その過程をご紹介します。

クライアントプロフィール

株式会社マルチプル(MULTiPLE Inc.)
共創型Web制作支援を軸に、ワークショップ、ファシリテーション、ディレクション、プロジェクトマネジメント、MVV策定を始めとするブランディング開発を行っている。

これまでの支援実績

  • 記事制作
  • キャッチコピー
  • コーポレートサイト
  • 更新システム(CMS)

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エルを選んだ理由

神保:
平藤さんとハラさんは、20年来の付き合いなんですよね。
平藤さん:
そうです。前のサイトも、10年前にハラさんにデザインしていただいたものでした。
グラフィックも動きも尖っていて、とても気に入っていたんです。サイトのデザインがきっかけで、お問い合わせをいただくこともありました。
平藤さん:
ただ、10周年を機に会社の在り方、打ち出し方を変えることになり、サイトもリニューアルすることを決めました。
神保:
大切なサイトリニューアルをエルに依頼してくださったのは、どうしてだったんでしょうか?
平藤さん:
それはもう、「エルさんのファンだから」です。
最初から決めていましたし、半年以上前から予約していました(笑)。

エルさんのアウトプットには、ずっと尊敬の念があります。今回は「会社の在り方を変えなければならないが、明確な正解がない状態」での依頼でしたが、そこから一緒に考えてくれそうだな、相談しながらつくることができるだろうな、という信頼がありました。
神保:
なんと光栄な…。
ハラ:
リニューアルをご一緒できて、僕たちもうれしかったです。
時代とともに、Webの役割は変わってきましたよね。ここ数年で「何ができるか」に加え、「どんな思考で、どんな姿勢で、どんなふうにやるか」を語ることが大事になってきたのを感じます。

「在り方」を示すデザイン

ハラ:
今回いただいたオーダーは「企業としての信頼感を出したい」でした。これまでは個人感が強かったので、「組織として見えるようにしたい」と。
最初にお話を聞いたとき、かなり印象が変わるんだな、とすこし驚きました。
平藤さん:
実は僕のなかでも、いろいろな思いが交錯していたんです。
「会社を大きくする」という目標はあるけど、ビジネスに全振りな表現はうちらしくない。ただ、今のサイトのままだと企業感がない。何より、発信ができていない。伝えたいことが伝えられていない…このもやもやを、迷いながらお伝えしていました。
ハラ:
お話を聞きながら、企業然とすることは意識しつつ、平藤さんらしさや「尖り」の部分は完全になくせない、なくすべきではない、と思いました。「企業らしさ」と「マルチプルの個性」のバランスが、今回のクリエイティブのポイントでしたね。

そこでメインのモチーフにしたのが「等高線」です。
ハラ:
「立場を超えて併走しながら、ともに頂上を目指す」スタンスと、平藤さんが例に出していた「登山」、どちらにも関わるモチーフとして選びました。
平藤さん:
等高線のモチーフは、初めて見たときからとても気に入っていました。そのままでも十分素敵だったんですが、言語化できない違和感があって…それを、かたちにならないままお伝えしました。
ハラ:
そのもやもやは、自分も感じ取っていました。いい反応はいただいたけど、まだ完全に腑に落ちていないのだろうと。「会社としての信頼感を出したい、でも、それに振りすぎるとマルチプルらしくない」、そんな思いを受け取って、あらためて表現を検討しました。
そして提案したのが、このデザインです。
ハラ:
まずは、ファーストビュー全面に等高線グラフィックを使いました。単なる背景パターンではなく、全体の世界観を支配する視覚言語として置いています。
そして、伴走・共創・翻訳といった思想を一言で力強く伝えるために、コピーを大きく提示。そのバランスを見たうえで、写真を思い切って小さくしました。
このデザインであれば、「企業としての信頼感」と「尖り」を共存させられるのではないかと思いました。
平藤さん:
デザインを見たとき、さすがだなあと思いました。ただ会社っぽいだけじゃなくて、自分たちの「らしさ」もちゃんと入っている。言語化できていない自分の葛藤を、丁寧に拾っていただいたのを感じました。「そうか、僕たちはこの姿を目指していくんだ」という気持ちになりましたね。
ハラ:
今回はシフトブレインの加藤さんも含め、チームのみんなで「らしさ」の表現についてディスカッションできたので、「一緒に山を登っている」感覚がありました。

「姿勢」を伝えるライティング

神保:
平藤さんは、ご自身でも文章を書かれるじゃないですか。今回、あえてエルに文章を依頼してくださった理由をお聞きしても…
平藤さん:
コピーライターである神保さんがいらっしゃったからです。

自分のことを伝えるときは、やっぱり第三者の視点が必要です。ここまで深くうちのことを知ってくれて、かつ文章が書ける人って、希少だと思います。加藤さんとも「神保さんがいてくれてラッキーだね」と話しています。
神保:
とても恐縮です…光栄です。でもそれは、マルチプルの取り組みに共鳴できたことが大きくて。
最初に平藤さんのお話を聞いたとき、「共創」の考え方にすごく共感したんです。AIによる効率化の時代に、一人ひとりの創造性に光を当ててくれる、信じてくれる人がいるって、ひとつの希望だなあと。
平藤さん:
ありがたいです。最初に提示した「すべての人の知的生産を触発する。(Inspire creativity for all)」というタグラインは、わかりづらくなかったですか?
神保:
個人的には、しっくりきていました。なので、対話を通じてこの「しっくりきている感」を、限りなく確信に近づけていった感じでした。
知れば知るほど、マルチプルさんの強みは「進行管理のスキルが高い」ことはもちろん、その奥に「クリエイティブへのリスペクト・愛」があることだと感じました。淡々と進めるだけじゃなく、「創造性を引き出して」くれる。よりいいものをつくろう、という士気を高めてくれる。まさに、タグラインと実態が重なっていると思いました。
平藤さん:
いやあ、こんなにうちのことを理解してくれる人にライティングしてもらえるなんて、こちらこそ光栄です。
神保さんは、自分が紹介した映画『剱岳 点の記』も観てくださったんですよね。
神保:
はい、これがほんとうにいい映画で…。「何をしたか、ではなく何のためにそれをしたか」という台詞がすごく刺さって、マルチプルさんの姿勢とも重なって、すーっと涙が出ました。何かを完成させる、遂行するって孤独な道のりだし、その先に何があるかわからなくて不安だけど、その過程に価値を見出してくれる人がいるって、すごく心強いなあって…。
平藤さん:
コピーや記事を書くにあたって、こちらが紹介した映画を観てくれるなんて感無量です。
神保:
とんでもないです、マルチプルの理念に共感したからこそ、「平藤さんと、可能な限り目線を合わせたい!」の一心でした。

コピーで訴求したのは、「併走します」「プロジェクトを円滑に進行します」の先です。人はみんな創造力を持っている。それを引き出すのが、マルチプルの役目だということ。それが組織にいい影響を及ぼすことを、クライアント目線でしっかり伝えたいと思いました。
さらに、もともとあったタグラインと組み合わせることで、マルチプルの姿勢と提供価値が具体的に伝わる表現にまとめています。
平藤さん:
なにかをつくるときって、必ず言葉が必要だと感じています。Webサイトはもちろん、ロゴやブランドをつくるときでさえも、それらを説明する言葉が必要になってくるので。言葉を扱える人がいることは、ブランディングデザイン会社にとって強みだと感じます。エルさんに依頼する方は、文章もお願いしたほうが絶対いいですよ。
神保:
平藤さんは言葉を大切に受け取ってくださるので、私も安心して、じっくり考えることができました。
平藤:
依頼する立場からすると、理解者がひとりでも増えたほうが、コミュニケーションが取りやすいんですよ。深くヒアリングしてもらえることはすごくうれしいですし、同じ目線で未来を見てくれる人と組むことができれば、アウトプットも必然的にいいものになると思います。

「らしさ」の実装

平藤さん:
エンジニアの長張さんは、前のサイトでもお世話になりました。マルチプルらしさを理解したうえで実装してくれる、これまた希少な人です。
長張:
いえいえ…!またご一緒できて光栄です。
平藤さん:
Webデザインは、デザイン(静止画)をつくった後に実装(コーディング)する流れになると思いますが、実際初めて実装後のデザインを見たとき、「あ、会社っぽくなったな」と実感しました。
前回はかなり「攻めた」動きのあるWebサイトでしたが、今回は企業然と、シックにまとめていただいていて、これからのマルチプルの在り方として腑に落ちました。
長張:
よかったです。
等高線のきれいな出し方は、結構、試行錯誤したところでした。表示するたびにランダム生成させることも考えたのですが、結局、最もきれいな静止画を出すことに落ち着きました。
平藤さん:
そういった試行錯誤を見えないところでやっていただいているからこそ、高いクオリティが維持されているんですね。
平藤さん:
メインビジュアルから次のブロックまでの動きも、特徴的ですよね。
長張:
今回のデザインでは、「今立っている場所」を示す演出として、ロゴに使われているシンボルマークを使っています。このマークを、メインビジュアルから次のブロックまで連動して表示させたいというハラさんからのオーダーを受けて、複数パターンを出してご提案しました。
平藤さん:
最終的に、一番「気持ちいいな」と思う動きを選ばせてもらいました。複数パターンご提案いただけていなかったら、たどり着けなかったと思います。
長張:
それから、このサイトは育てる前提で設計しているので、これから追加したいコンテンツやアップデートにも柔軟に対応できる仕様になっています。コラムはnoteと連携して、指定した記事をサイトに表示できるようにしました。
平藤さん:
ずっと課題だった「サイトからの発信がない」ことが、おかげさまでクリアできましたし、設計に柔軟性があることで、新しいことにも積極的にチャレンジできそうです!

リニューアルの成果

神保:
サイトをリニューアルして、どんなことが変わりましたか?
平藤さん:
まず、社内資料にしかなかった言葉を、誰でもいつでもアクセスできる場所に公開できたことは会社にとって大きな一歩でした。

そのうえでWebサイトは、マルチプルが向かう未来の旗印になっていくんだろうなと思います。理念や、今回開発いただいたキャッチコピーや、我々の価値観をWebサイトで表現していただいたことで、インナーブランディングへの効果を感じています。きっと採用も変わってくる気がします。
神保:
よかった、すごく、励みになる言葉です。
ハラ:
今後は、noteや実績の発信も積極的に行っていくんですよね。
平藤さん:
はい。リニューアルを機に、みんなでSNSを計画的に運用していこうと考えています。
サイトはつくってからが始まりといわれていますが、実際当事者になってみて、大変さを身にしみて実感しています。
ハラ:
そうなんですよ。通常業務の傍らで発信をしていくのって、かなり馬力が必要で。
平藤さん:
僕と同じように思う方は、きっと多いはずです。だからこそ、コンテンツ制作や編集機能をもっていることは、エルさんの大きな強みだと思います。
平藤さん:
それから、今回のプロジェクトでクライアントの立場になってみて、ジャッジするのって難しいなあとあらためて思いました。
ハラ:
とてもよくわかります。自分のこととなると、急に良し悪しを決めるのが難しくなりますよね。
神保:
経営者自身の人格と会社の人格は、完全一致ではないですもんね。どんな表現をよしとするか、どっちの主語で考えるべきか、きっと悩まれるだろうな…と思います。
平藤さん:
そう、だからこそ、みなさんから提案してもらえたのはありがたかったです。
相談しながら進められる、「絶対これだろ!」と提示されるのではなく、「こんな表現はどうでしょうか」と提案してもらえる。みなさんが思う「マルチプルらしい表現」を出し合ってもらって、ひとつずつ決めていくという方法は、とてもありがたかったです。
神保:
正解を持っていることが必ずしも正解とは限らないんだなと、今回すごく実感しました。正解を持つことが必要なこともあるけど、それは同時に、いろんな選択肢を早くから捨ててしまうことでもある。
マルチプルさんとのプロジェクトでは、「みんなで探す」感覚があって、過程自体に価値を見出すことができました。結果はもちろん大事ですが、これをやってよかったねとみんなが思えているなら、それが一つの成果なんだなと思います。

マルチプルから見たエル

神保:
あらためて、平藤さんから見たエルってどんなイメージですか?
平藤さん:
いい意味で、アウトプットするものに「エルらしさがない」ところですね。「おれたちはこれをつくるんだぜ!」というオラオラ感がない(笑)。
ハラ:
「エルっぽさがない」というのは、僕たちにとって最高の褒め言葉です。
平藤さん:
クリエイターとしての芯は持ちつつ、クライアントの話をちゃんと聴いて、思いを汲み取って、らしいアウトプットを出す…エルさんは当たり前にやっていますが、それができる会社さんって、少ない気がします。
成果物のクオリティが高いことは大前提で、アイデアを提供してくれつつ、一緒に考えてくれるのがエルさん。
神保:
すごい褒めてくださる…ありがとうございます。
私たちが大切にしているワードが「等身大」なので、その部分を見つけていただいた気がして、とてもうれしいです。
平藤さん:
みなさん控えめだけど、はたから見るとだいぶ目立ってますよ。姿勢とスキルが伴っていることは、多くの人が認めていると思います。

とくにハラさんが代表になってから、エルの輪郭がよりはっきりした気がします。ハラさんがもともと得意だったところが、世に出始めたというか。ライターを内製化したのも、大きな変化でしたよね。
ハラ:
そうですね、ここ数年で、だいぶ変わったと思います。チームを組んで、ことばで方向性を定めて、表現に落とし込む、というプロセスを取るようになりました。何をつくるかだけでなく、どんなふうにつくるか、も大切にしています。
神保:
平藤さんたちの「共創」と近いのかもしれません。ひとりだと行けるところに限りがあるけど、チームであればもっと遠くに行ける、という感覚は、自分にもあります。

これから一緒にやってみたいこと

平藤さん:
ちなみにエルさんは、これからどんな人と仕事していきたいんですか?
神保:
(わ、逆質問!)
そうですね…「思いはあるけど、伝え方がわからない」という人のお手伝いをしたいなと、常々思っています。
伝えることってすごく難しいし、伝えようとすること自体、勇気が要ります。だからこそ、隣に立って、思いを世の中に伝えるための表現方法を一緒に考える、いろいろな選択肢を提示できる、そんな存在でいたいです。
平藤さん:
まさに、リニューアルを依頼したときの僕じゃないですか。エルさんに依頼したときは、「10周年を機に何かやりたい、けどアイデアがない、思いはあるけど伝え方がわからない」状態だったので。
神保:
「やりたいけど動けない」ときって、一番エネルギーを使うと思っていて。
平藤さん:
はい。僕がそうでした。
神保:
だからこそそんなときに、エネルギーの矛先や使い方を、一緒に考えることができたらいいなと思うんです。そしてそれを行うためには、エルだけでなく、いろんな人と組んでやっていく必要があるなと感じています。
平藤さん:
うちはあえて自社完結しない体制を取っていて、パートナーとのコラボレーション、共創ありきで仕事をしているので、エルさんみたいな会社が増えるとうれしいです。

自分は社会的に影響があるようなプロジェクトに興味があるので、エルさんと一緒に、そういったことに参加できたらうれしいです。たいてい期間が長く、Webに留まらないプロジェクトだったりするのですが。
神保:
ぜひ!プロジェクトに平藤さんがいてくれたらすごく心強いです。私たちもブランディングデザイン会社として、できることの幅は広げていきたいので。一緒に何かいい現象を起こせたら、とてもうれしいです。
平藤さん:
また仕事お願いしてもいいですか、ハラさん?
ハラ:
もちろんです、こちらこそ!オフィスにも、また遊びに来てください。
平藤さん:
いやあ、まだまだ話し足りないですね。今日、ここで仕事していってもいいですか?
ハラ:
ぜひ!
神保:
やったー!

プロジェクトの「共創過程」をもっと知りたい方は、マルチプルさん視点の記事をご覧ください。 

記事クレジット

  • 写真:内山温那
  • 文:神保美月

プロジェクトメンバー

Planning
平藤篤(MULTiPLE Inc.)
Project Manager
喜多明生(MULTiPLE Inc.)
Project Manager
高橋まみ(MULTiPLE Inc.)
Designer
ハラヒロシ
Copywriter
神保美月
HTML Coder
長張由布
Engineer
長張由布
Graphic Designer
藤本健太郎(DESIGNnobi)
Illustrator
山本由実
Supervisor
加藤琢磨(SHIFTBRAIN)