らしさとは?を楽しく学ぶ

ウル虎の巻

-エルくんの挑戦 壱の巻-まず、聞いてみるでござる。

エルくん、はじめてのひとりヒアリング。

エルくんは巻き物を開いた。明日ははじめて一人でヒアリングに行く。社長に突然言われた。「雑貨店のオーナーさんだ。Webサイトを作りたいらしい。一人で行ってこい」。アドバイスはなく、その一言だけだった。

硯を出して墨を磨り始め、これまで言われたことを書き出した。

「まず聞く。提案は後。」

「らしさは、相手の中にある。」

「作る前に、聞くことがある。」

書いているうちに、自分がいつもどうしていたかを思い出した。お客さんの話を半分聞いたところで「それならこうすれば!」と前のめりになってしまう。社長に何度止められたかわからない。明日は社長はいない。明日こそ、ちゃんと聞くでござる!巻き物を閉じて、プリンを食べた。

当日

翌朝、エルくんは路地の奥にある小さな雑貨店の前に立った。ショーウィンドウには、手作りのアクセサリーが並んでいる。センスがある。でも、どういうお店なのかは、外からだとよくわからない。深呼吸して、扉を開けた。オーナーの阿久瀬サリーさん(35)がお店の奥から出てきて、「どうぞ」と椅子を勧めてくれた。エルくんは椅子の上に正座して、巻き物を開いて筆を握りしめた。

まず聞く。提案は後。

エルくん
エルくん
あの、まずお店のことを聞かせてくだされ

自分でも驚くくらい、ちゃんと言えた。

ヒアリング

阿久瀬さん
阿久瀬さん
Webサイトを作りたいんですけど、何から始めればいいかわからなくて
エルくん
エルくん
Webサイトで、どんな方に来てほしいと思っているでござるか?
阿久瀬さん
阿久瀬さん
近所の方はもちろんなんですけど、遠くからわざわざ来てくれるようなお店にしたくて。うちにしかないものがあるって思ってもらえるような
エルくん
エルくん
うちにしかないもの、というのは?
阿久瀬さん
阿久瀬さん
仕入れは全部自分で選んでいて。産地に直接行って、作り手の話を聞いてから買うようにしているんです。だから、どこにでもあるものは置かなくて

エルくんは、筆を持った手が止まった。

これだ。これがこのお店のらしさだ。

エルくん
エルくん
それ、すごくいいでござるね。それ、最初にお客さんに伝えているでござるか?
阿久瀬さん
阿久瀬さん
言われてみると、あまり言ってないですね。聞かれたら話すくらいで
エルくん
エルくん
では、Webサイトにはそこから——

言いかけて、止まった。

提案は後。もう少し聞く。

エルくん
エルくん
もう少し聞かせてくだされ。産地に直接行く、というのは、いつごろから?
阿久瀬さん
阿久瀬さん
開店したときからですね。最初は国内の問屋さんから仕入れていたんですけど、なんか違うなと思って。実際に行って、作っている人の顔を見てから買いたくて
エルくん
エルくん
顔を見てから、でござるか?
阿久瀬さん
阿久瀬さん
そうです。作り手のことを知っていると、お客さんに説明できるじゃないですか。『これはこういう人が作っていて』って。それが好きで
エルくん
エルくん
お客さんが買うのは、ものだけじゃなくて、その話ごと、でござるね
阿久瀬さん
阿久瀬さん
そう!そういうことなんですよね。うまく言えてなかったけど、まさにそれで

エルくんは、さらに巻き物に書き留めた。「ものじゃなくて、話ごと買う」。

エルくん
エルくん
お店を始めたのは、いつごろでござるか?
阿久瀬さん
阿久瀬さん
7年前です。もともと会社員だったんですけど、旅先でいいものに出会うたびに『これを誰かに伝えたい』と思って。それが積み重なって
エルくん
エルくん
7年間、ずっと産地に行き続けているでござるか
阿久瀬さん
阿久瀬さん
毎年行っていますね。それが一番楽しくて。大変だけど
エルくん
エルくん
すごいでござる。その話、お店に来たお客さんは知っているでござるか
阿久瀬さん
阿久瀬さん
常連さんは知ってくれていますけど、初めての方には話せていないことが多いですね。なかなかきっかけがなくて

それだ。

エルくんは「では、SNSで——」と言いかけた。ぐっとこらえた。「では、まずページを——」と言いかけた。またこらえた。

エルくん
エルくん
もう少し聞かせてくだされ。お客さんが来てくれたとき、一番嬉しい瞬間はどんなときでござるか
阿久瀬さん
阿久瀬さん
これどこで買えますか、じゃなくて、これ誰が作ったんですかって聞いてくれるときですね。作り手のことを気にしてくれるお客さんが来てくれると、このお店を続けてよかったなって思います
エルくん
エルくん
それ、すごく大事なことでござるね
阿久瀬さん
阿久瀬さん
そうなんですかね。私には当たり前すぎて、あまり考えてなかったけど

そこからしばらく、話は続いた。お店の棚の配置のこと、常連さんとのやりとりのこと、去年行ったインドの市場のこと。エルくんはほとんど喋らず、ただ聞いていた。巻き物はどんどん伸びていった。気づいたら、1時間が経っていた。

帰り道

帰り道、巻き物を開いた。今日聞いたことをあらためて書き出していくと、このお店のことがだんだん見えてきた。産地に行く。作り手の顔を見てから買う。ものじゃなくて、話ごと伝える。遠くからわざわざ来てもらえるお店にしたい。

これ、全部つながってるでござるな。

Webサイトに何を書くべきか、なんとなくわかってきた気がした。でもそれより、聞いていてお店のことが好きになっていった、という感覚の方が強かった。

「むずかしいけど、おもしろいでござるな」

事務所に戻る

事務所に戻ると、社長がデスクで書類を見ていた。

舵取社長
舵取社長
どうだった
エルくん
エルくん
むずかしいでござった。でも、聞けたと思うでござる
舵取社長
舵取社長
そうか

それだけだった。でもなぜか、少し背中を押してもらえた気がした。

その夜、エルくんはもう一度巻き物を開いた。今日書いたことの下に、一行付け足した。

「聞くって、相手のことが好きになることかもしれない」

明日またがんばろうと思った。

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