らしさとは?を楽しく学ぶ

ウル虎の巻

-番外編 四-(誰も拾わない)、のじゃ。

長老と、ハクライ。

その日、事務所にいるのは長老とハクライだけだった。

社長は取材対応で外出中。エルくんは昨日から「エルくんの挑戦」とかいう名目でどこかへ行っている。長老は窓際の椅子でお茶を飲んでいた。ハクライはデスクの前に座って、何かをタイピングしていた。

しばらく、何も言わなかった。

ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……長老
ホウホウ長老
ホウホウ長老
なんじゃ
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
一つ、クエスチョンがあるでごじゃる
ホウホウ長老
ホウホウ長老
聞こう

ハクライは少し間を置いた。いつもと違う。横文字が出てこない。

ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……なぜ長老は、拾わないでごじゃるか
ホウホウ長老
ホウホウ長老
何を?
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
拙者のセリフでごじゃる。毎回、誰にも拾われないでごじゃる。わかっているでごじゃるよ。でも……なぜでごじゃるか

長老は、お茶を一口飲んだ。

ホウホウ長老
ホウホウ長老
ハクライよ、お前は正しいのじゃ
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……は?
ホウホウ長老
ホウホウ長老
言っていることは、毎回正しい。わしはちゃんと聞いておる
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……聞いておる、でごじゃるか
ホウホウ長老
ホウホウ長老
うむ。お前が言ったことで、わしが気づかされたことも一度や二度ではない

ハクライは、タイピングの手を止めた。

ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
では、なぜ——
ホウホウ長老
ホウホウ長老
伝わらないからじゃ
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……
ホウホウ長老
ホウホウ長老
正しくても、伝わらなければ意味がない。お前の言葉は正しい。でも、エルには届いておらん。社長にも届いておらん。わしが拾わないのは、お前の言葉を否定しているのではなく——
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……"伝わらない"ということを、見せているでごじゃるか

長老は何も言わなかった。それが答えだった。

しばらく、また沈黙が続いた。

ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……拙者は、なぜこういう話し方になったのでごじゃるか、自分でもよくわからないでごじゃる
ホウホウ長老
ホウホウ長老
ほう
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
最初からこうだったわけではないでごじゃる。でも、いつからか、横文字を使わないと自信が持てなくなって。難しい言葉を使えば、賢く見えると思っていたでごじゃる
ホウホウ長老
ホウホウ長老
……それは、わしも同じじゃった
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
長老も、でごじゃるか?
ホウホウ長老
ホウホウ長老
難しい言葉を使うことで、自分を守っていた時期があるのじゃ。いつしかそれが癖になった。エルに翻訳させているのは、わしへの戒めでもあるのじゃ

ハクライは、少し考えてから言った。

ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……長老、一つ教えてほしいでごじゃる。拙者の言いたいことを、シンプルに言うとしたらどう言えばいいでごじゃるか
ホウホウ長老
ホウホウ長老
今日、何を言ったのじゃ
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
えっと……ブランドのコンシステンシーがどうのこうのでごじゃる
ホウホウ長老
ホウホウ長老
……それは、『らしさを守り続けることが大事』ということじゃろ
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……そうでごじゃる
ホウホウ長老
ホウホウ長老
ならばそう言えばよい
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
……それだけで、いいでごじゃるか
ホウホウ長老
ホウホウ長老
それだけでいい。簡潔な言葉の方が、深くまで届くのじゃ

そこへドアが開いて、エルくんが帰ってきた。

エルくん
エルくん
ただいまでござる!今日はヒアリングが——あれ、なんか空気がいつもと違うでございますな
ホウホウ長老
ホウホウ長老
なんでもないのじゃ
ベイ・ハクライ
ベイ・ハクライ
ノーシングでごじゃる
エルくん
エルくん
(何があったでござるか……?)

その日以来、ハクライの横文字が少しだけ減った気がした。気のせいかもしれない。でも、エルくんは何度かハクライのセリフを「あ、それってこういうことでざるか?」と拾うようになった。

長老は、何も言わなかった。ただ、お茶を飲みながら、少しだけ目を細めた。

-エルくんの挑戦 壱の巻- まず、聞いてみるでござる。 -エルくんの挑戦 弐の巻- 社長の背中を、盗み見た日。

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デザインスタジオ・エル

ブランディングデザイン会社|長野

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