thee #13『売り言葉』
長野市の演劇ユニット・theeの第13回公演『売り言葉』上演鑑賞。稽古場2回潜入してましたが、観客として隅々まで堪能しました。おさらいですが、今回はthee初の非オリジナルで、野田秀樹・作&演出/大竹しのぶの一人芝居『売り言葉』を、ふたり芝居で上演。
『智恵子抄』は、ほんとうに二人の純愛を綴ったものなのだろうか?この『売り言葉』は、『智恵子抄』をベースに、女中(智恵子のもう一人の人格?)が本心を代弁するような形式で進んでいきます。その設定が面白い。
智恵子は、光太郎が描く『智恵子抄』の美しい言葉に縛られ、その理想の姿であろうとすればするほど、現実の自分と乖離し、破綻し、崩壊していく。芸術家として世に認められず、夫に裏切られ、実家は破産。アイデンティティがことごとく失われる。孤独。挫折。女中は、智恵子が押し殺した感情。でも智恵子は、それを表に出さない。死を迎えるその一瞬までも、まさに自分自身が作品であることを全うしなくてはいけない呪縛のなかで美しくあり続ける。なんと不幸で、哀しい。とても明るい前半から一転しての、後半の狂気ぶりが圧巻でした。
オリジナルの一人芝居を見ていないのですが、それを想像しつつ、二人芝居にしたところがtheeっぽいのかなとも思いました。女中が光太郎などにチェンジするところでクスっとする場面を作り出したり、智恵子の傍ら…少し距離を置いたところで光太郎が淡々と詩を書いている様子は現実とのギャップをより深く表現していたのかもしれません。
今回は非オリジナルということでしたが、やっぱりtheeだなと思えた素晴らしい90分でした!