翻訳夜話
小説家であり翻訳家でもある村上春樹氏、東大教授の柴田氏、そして翻訳を志す若者のセッションの記録…。帯のコピーには”翻訳が好きで仕方ない二人が語り明かした一冊”とある。手にとったときどうもとっつきづらさがあったのですが、この本を貸してくれたディレクター・I氏は編集出身で生粋の読書家。そのI氏が推薦してくれたのだから…と関心半分、責任半分という感じで読み始めたら、すごく面白かったです。
技術中心の崇高な翻訳業の蘊蓄という感じではなく、翻訳をすることについての動機や心構えが話題の中心になっているので、私のような素人でもわかりやすい内容になっています。そればかりか、”二人が語り明かした”とありますが、セッションの中での”翻訳を志す若者からの質問”が織り交ぜられていることで臨場感があってワクワク感すらある感じ。ひとつの題材で両氏の競訳付きというのも面白いです。
なによりデザインという仕事に置き換えたとき、小説家的側面と翻訳家的側面の両方があるなぁと思いつつ読み進められたこと。デザインはクライアントの要望や問題点をデザインというカタチで翻訳するようなもの。直訳してみたり、意訳してみたり。誤訳はご法度。そう思うと、文中の「翻訳というのは濃密な読書」という言葉とかはグサりと突き刺さります。
翻訳夜話 (文春新書) (新書) 村上 春樹 (著), 柴田 元幸 (著)